03


この時、俺達は気づかなかったがどうやら真田達の方からは俺が政宗にキスをしているように見えたらしい。

とにもかくにも、総長と副総長である真田、猿飛両名に置いていかれた格好になった紅虎のメンバーを政宗は解散させた。

「ったく、なんで俺が敵チームの奴等を解散させなきゃなんねぇんだ」

文句を言いつつも敵チームの面倒を見てる政宗って優しいよな。

俺は政宗の斜め後ろに立ち、微かに口元を緩めた。

「おい、てめぇ等!今日はもう解散だ。明日の集会忘れんじゃねぇぞ」

ぐるりと周りを囲む、片膝をついて大人しく政宗の声に耳を傾けている面々にそう言い放ち政宗は解散の意を告げた。

次いで、おー!だとか、Yeahー!だとか返事が返り皆ばらばらと散り始めた。

「帰るぜ慎」

「おぅ」

灯りが灯り始めた道を政宗と肩を並べて歩く。

会話はなくともコイツの隣はいつも心地良い。

「なぁ、政宗」

「なんだ?」

「俺のこと好きだって言ったよな?」

唐突に昼間の話を蒸し返した俺に政宗は眉を寄せ、怪訝な表情を浮かべた。

「言ったぜ。お前も俺が好きだって言ったよな?それがどうした?」

「うん。その愛で俺を庇ってくんない?」

は?と間の抜けた声を出した政宗に、前見ろと小声で囁く。

と…。

「げっ、小十郎…」

数メートル先、伊達組と書かれた立派な門の下で俺達の保護者的人物が待ち構えていたのだ。

俺は薄暗くなっていく空を見上げ考える。

おかしいな。今日は昨日より早く帰ってきたのに。

「Shit!好きだってんなら慎こそ俺を庇え」

「いやいや、政宗でも無理なら俺が出来るわけないでしょ」

かといって逃げるという選択肢は存在しない。

俺達が帰る場所は目の前の屋敷しかないのだから。

「政宗、ここは謝って大人しく説教を受けよう」

思考を巡らせている政宗の背を叩き、俺は腹をくくる事にした。

「仕方ねぇ…」

はぁ、と逃げ切れない事を悟った政宗もまた腹を決めたようだ。

「説教がすんだら耐えたご褒美に俺が良いもんやるから頑張れ」

「そりゃ俺にじゃなくて自分にだろ」

「そうとも言う」

ははっ、と笑って俺は少し背伸びをした。

「じゃ、俺の分は前払いでいいや」

影が重なり、離れる。

「ん。…さ、怒られに行くか」

「おぅ。にしても怒ってる理由がさっぱり分からねぇな」

首を傾げる政宗と一緒に俺は歩を進めた。

すると、向こうも俺達に気付いたのか声を上げた。

「政宗様、慎様!」

「そんなに慌ててどうした小十郎?」

「どうしたじゃありません!」

そんな怒らせるようなことしたっけかな?俺にもさっぱり覚えがないんだけど。

「お客様がお見えです!早く着替えて謁見の間にいらっしゃって下さい」

「客?誰だソイツ?」

「なぁんだ、説教じゃなかったのか。あー、焦った」

真面目な話をする二人の横でポツリと落とした俺の呟きは嫌に大きく聞こえた。

気づけば政宗が馬鹿、と小さく舌打ちし、小十郎は俺を見てきた。

「お二人とも、この小十郎に説教をされるような事を仕出かしてきたのですか?」

ぐっ、と心当たりがなきにしもあらずな俺はつい押し黙った。

授業をサボって学校を抜け出した。

その上、乱闘までしてきた身でNoとは言えなかった。

「そうですか。お説教は後にして差し上げます」

とにかく今は早く中へ、と言われ俺は重くなった足を動かした。

「馬鹿慎。なに墓穴掘ってやがる」

「悪い。ホッとしたらつい」

小十郎の背を追いながら俺は政宗に軽く小突かれた。

「お前後で覚えてろよ」

「何だよ政宗だって同罪だろー」

拗ねたようにボソッと溢せば、何か言ったか?と爽やかな、身の危険を感じさせるような笑みで政宗が顔を覗き込んできた。

「うっ…」

これはヤバイ。
てか、顔近いよ政宗。

「くくっ、顔赤いぜ慎」

「…うるせぇ、分かってるから言うな」

不意打ちには弱いんだ俺。

顔を覗き込んでくる政宗からふぃと視線を反らし、口をつぐむ。

「そう拗ねんなよ。可愛いだけだぜ」

ちゅ、と頬に柔らかい感触を感じて俺はパッと頬を抑えた。

「ばっ、小十郎さんが居るんだぞ!」

極力声を抑えて叫べば、予想外の言葉が返ってきた。

「No problem.アイツは知ってるぜ」

………え?

「お二人とも戯れはそこまでにして、迅速に行動していただかねばこの小十郎の堪忍袋の緒が切れますぞ」

かけられた声に顔を前に戻せば額に青筋を浮かべた小十郎がこちらを見ていた。

「…っ!」

俺は顔を赤くしたらいいんだか青くしたらいいんだか混乱してきた。

「Hey、行くぜ」

「まっ…」

「It is all right」(大丈夫だ)

トンと拳で俺の胸を軽く叩き平然とした顔で先へ進み始めた政宗。

いつの間に小十郎にまで知られていたのか知らないが政宗との関係を反対されている雰囲気は微塵もない。

それはきっと政宗が…。

「政宗…」

前を歩き始めた政宗の背が大きく見えたのはきっと気のせいじゃない。

頬に手をやったままその場に立ち止まっていた俺に政宗が振り返る。

「Come on、慎」

なんでもないような顔して、いつもやってくれやがって。

「お前のせいだろ、馬鹿」

どれだけ俺を落とせば気がすむんだ。

カッコ良すぎだ、ちくしょう。

あぁ、今日も俺は一つ眼の竜に魅せられている。

男としてほんの少しくやしくもある…

けど、

こんな気持ちも悪くはない、…な。

先で待つ政宗と小十郎の元へ俺は駆け足で向かった。



fin...


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